生まれついての出不精だがそれでも時々、どこか遠く、知らない場所へ行ってみたくなる。自分のことを知っている人が一人もいない土地というのはやはり魅力的だ。と、いうようなことを駅に住むおじさんが話していた。ひとりで、壁に向かって語りかけていた。器用に話すものだと感心しながらぼくはその光景をスケッチしていた。スケッチと言っても紙に絵を描くのではなく、あたまの中に一まとまりの文章として並べてゆくのだ。そうやって描き溜めた、ある種の感情を喚起する光景たちをぼくは時々引っ張りだしてきては横から眺めたり、熱湯につけてみたりして楽しむ。割といい暇つぶしになる。